事務所通信

2025年

事務所通信【2025年6月号】

税務:令和7年度税制改正のポイント 年収160万円まで所得税の課税最低限が引き上げ

 令和6年分まで、年収103万円以下の給与所得者(会社員、パート・アルバイト等)は所得税がかかりませんでした。「103万円」の根拠は、給与所得控除の最低保障額55万円と基礎控除額48万円の合計です。令和7年度税制改正により、給与所得控除と基礎控除の金額が見直され、所得税の課税最低限が「160万円」まで引き上げられました。

 ○給与所得控除:令和7年分以降、年収190万円以下の人は「65万円」になります。

 ○基礎控除:年収200万円相当以下の人は、「95万円」となります。年収200万円相当超2,545万円相当以下の人は、令和7年分・8年分に限り、4段階で基礎控除額が変わります(88万円・68万円・63万円・58万円)。

 ほとんどの給与所得者に適用される基礎控除額が引き上げられたことで、令和7年分・8年分の所得税については、幅広い年収層で2万円から3万円程度の減税となります。

 令和7年分については年末調整で減税分を還付することになるため、年末調整事務が複雑になることが予想されます。TKCの「FXクラウドシリーズ給与計算機能」「TKCまいポータル」を利用することで、複雑な年末調整事務を効率化・省力化することが可能です。詳細は当事務所へお問い合わせください。


会計:経理の「?」を「!」に 請求書があれば「費用」にできる?

 「費用」とは、収益を得るために発生する支出のことを指します。そのため、一定期間の収益とその費用は必ず対応させること、また、発生した期間に正しく割り当てられるように処理することが求められます(費用収益対応の原則)。つまり、「今期の費用は今期に、翌期の費用は翌期に」が費用計上の大原則です。

 加えて、「いつ費用にできるか」というタイミングには、税務においても一定のルールがあります。これは「課税の公平性」の観点から、利益操作のための支出や収益との対応期間のズレがないようにするためです。税務上の費用は「損金」といい、例えば、売上高を得るために直接要する費用(売上原価)は、売上に対応する分だけが損金として計上できます。販売費や一般管理費その他の費用は、減価償却費等を除き、「当期中に債務が確定しているもの」が損金に計上できます。「当期中に債務が確定しているもの」とは、決算日までに、①その費用に係る債務が成立していること②具体的な給付をすべき原因事実が発生していること③金額が合理的に算定できること――のすべての要件を満たしているものをいいます。

 「適時・正確な記帳」のために、「費用」の処理についていま一度確認してみましょう。


労務:「お客様」の立場を利用した 過剰な要求への対応方法を考えましょう

 「お客様の声」は、自社の商品やサービスの開発・改善における大事なヒントです。一方、「お客様」の立場を利用し、過剰あるいは理不尽な要求、攻撃的な振る舞いをする人も。そうした人の行為は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれ社会問題となっています。

 かつてはカスハラにあたる事例が起きても「顧客対応の一環」と捉える向きもありましたが、「働き方改革」の推進や少子高齢化に伴う人手不足により、従業員の立場が重んじられるようになり、顧客対応のあり方も見直されています。カスハラ被害に遭った従業員のケアを怠ると、離職につながるだけでなく、採用に影響を及ぼすおそれも。カスハラの事案が生じたら、まずは従業員に寄り添うことが大切です。

 また、自身がカスハラを行ってしまうおそれがあることも忘れてはいけません。商売において、売り手と買い手は対等であることを、あらためて意識しましょう。 


 年末調整は、給与所得者の所得税額を正確に計算し、源泉徴収税額との過不足額を精算する手続きです。令和6年分の年末調整では、6月から実施された定額減税(所得税分:1人あたり3万円)にかかる「年調減税事務」が必要になります。

 年調減税事務においては、従業員から提出された「扶養控除等申告書」や「基礎控除申告書」「配偶者控除等申告書」等をもとに、年末調整時点において定額減税の対象となる従業員、同一生計配偶者、扶養親族の人数等に変更がないかを確認し、減税額を確定します。

 以下に該当する場合には、注意が必要です。

 ○令和6年6月2日以後に採用した従業員

 ○令和6年6月以後、結婚・出生などがあった従業員(同一生計配偶者・扶養親族分)

 ○給与所得以外の所得を含めた合計所得金額が1,805万円を超えた従業員

 ○同一生計配偶者・扶養親族ではなくなった人(就職、離婚、所得が48万円超等) など

 年末調整において確定した減税額等は、「給与所得の源泉徴収票」の「摘要」欄に記載することが必要になります。例年よりも早めに手続きを進めましょう。


経営:もっとラクに、カンタンに! 今話題の「請求業務のデジタル化」

 経営において、お金を回収する「請求業務」は非常に大事です。一方で、「納品書等から請求書に転記する際に記載ミス・計算間違いをしてしまった」「取引先から『請求書の内容がインボイスの記載要件を満たしていないので再発行してほしい』と言われた」「請求時に『売れ筋商品』『商品の売れ時』をチェックしたいが、管理が煩雑」といった経験はありませんか。「請求業務のデジタル化」で、これらのミスや手間、コストを削減しましょう。

 「請求業務のデジタル化」には、FXクラウドシリーズ「販売管理機能」が便利です。売上伝票を作成すると同時に①納品書・請求書等が作成できる②仕訳も自動計上される──などの特長があるため、請求書発行時のミス・モレが起きづらくなります。その上、インボイス制度にも完全対応。また、商品ごと・取引先別の販売管理データから「売れ筋商品」「よく売れる月」「安定して入金してもらえている取引先」を「見える化」。「何が・いつ・どれだけ・誰に」売れているかがいち早く把握できるため、販売戦略のヒントがつかめます。

 請求書をPDF化してメールで送信している企業では、よりデジタル化を追求した「ペポルインボイス」の利用も視野に入れてみましょう。請求業務のデジタル化がさらに加速します。


事業承継:考えていますか? 「自社株式」の贈与

 「株式の保有者」=「株主」の権利は「財産権」と「経営権」。自社株式の大半を経営者が保有している中小企業では、これらを普段の経営で意識することは少ないかもしれませんが、特に事業承継時には重要になります。「いつ」「どのタイミングで」「どのくらいの株式を渡すのか」について、財産権と経営権を考慮しつつ、長期的な展望で後継者に渡す(贈与する)ことが重要です。自社株式の贈与の前には、①自社株評価②名義株等の整理③株式譲渡制限の有無の確認――をしておきましょう。

 多くの場合、事業承継における自社株式の贈与は「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」で行いますが、令和9年12月31日までは、「特例事業承継税制」を活用することも可能です。

 複数年にわたる贈与は、毎年、自社株式の評価を行い、計画性をもって慎重に進めることが必要です。